COLUMN海外メディア戦略コラム
日本とアメリカ 各国の政府広報とは?
2021年9月に菅前総理大臣が退陣表明をしたことで、岸田新内閣が発足。当初は新総理候補であった河野氏は「広報本部長」のポジションにつき、メディアはこぞって「降格人事」「冷遇」と取り上げました。
幹事長となった甘利氏は「広報本部長で腐って、そこで仕事ができないか。広報本部長っていうポストを歴代で一番輝かせることができるか。それは河野さん次第ですから、彼のこれからのキャリアの中で広報本部長っていうのがどういう位置を占めるか。それが将来にかかわっていると思う」とコメントしました。
このことからも、広報本部長というポジションは、日本では非常に複雑なポジションであることが窺えます。しかしながら、海外のニュースをよく見ている人たちの中には、日本の広報本部長に類する「報道官」が大変な活躍をしているのに気づくと思います。広報本部長は一体どのような仕事なのでしょうか?なぜ海外とこれほどまでに開きがあるのでしょうか?
本記事では、日本における広告本部長の役割について紹介するとともに、諸外国との位置づけの違い等について紹介します。
そもそも広報本部長とは何をする仕事
政府の広報本部長の前に、企業でよく聞く広報部長について整理しておきましょう。企業における広報部長とは、社外への広報活動や企業の決定事項をもとにした社内・社外における関係構築を行うポジションです。企業の重要な実施事項を社内外に情報伝達する役割であることから、非常に重要なポジションといえます。
政府の広報本部長も、基本的には同様の役割を担うと考えて良いでしょう。広報本部は幹事長や党政調をはじめとする党内の各役員と連携しながら、国民の党の活動を正しくかつ効果的に伝える役割を担います。これまでの歴代広報本部長を見ても、有名な政治家が並びます。
歴代の広報本部長
茂木敏充
甘利明
小池百合子
馳浩
木村太郎
平沢勝栄
平井卓也
丸川珠代
有村治子
テレビやメディアでの露出も多くなることから、重要なポジションの1つであることは間違いありません。しかしながら、基本的には決定事項をうまく共有することが求められる立場であり、政策立案や運営などを行う立場ではありません。
河野氏はご存じの通り、内閣総理大臣のポジション争いをし、1回目の投票で第1位を獲得したほどの人物です。もちろん、実現したい政策なども保有していました。しかしながら、広報本部長の役割は上記でも紹介した通り、党の情報を正しく共有することです。自身で政策を考案し、日本国民を導くことはできません。そのため、今回の人事は河野氏の経歴を考えると非常に微妙なポジションと言われても仕方がなく、「降格人事」「冷遇」という言葉で表現されたわけです。では、広報本部長とは、あまり重要ではないポジションなのでしょうか?
アメリカでの報道官の事例
視点を変え、アメリカにおける政府の広報本部長である「報道官」の事例をみてみると少し違った評価が見えてきます。
現在のバイデン政権における報道官は「ジェン・サキ」氏が就任しています。まず注目したいのは、サキ氏は政治家ではないという点です。サキ氏はこれまで、アメリカ合衆国国務省報道官やホワイトハウス広報部長を務めてきた人物で、いわば広報のプロです。過去の実績が評価され、バイデン政権における報道官に抜擢されました。
サキ氏は2021年1月にバイデン政権の報道官に就任後、数々の独自手法により、アメリカ国内で一躍評価されるようになります。具体的には以下のことに早期に取り組みました。
・政府と記者の関係修復
・毎日の記者会見を復活
・記者会見に手話通訳者を同席
・SNSを活用した政策等の拡散
・記者会見の生中継
また、これらに加え、政府の政策をわかりやすく端的に説明するトーク力や、批判的な意見に対して攻撃的にならない姿勢、反対意見に対してはきちんと向き合い論理的に説明をする対応力など、さすがは報道のプロともいえるべき資質が垣間見えています。
アメリカ国内のメディアはサキ氏の報道官としての資質を大絶賛しており、またSNS上においてもサキ氏の優秀さを褒め称える投稿が多くあります。サキ氏は就任数ヶ月にして、アメリカの報道官の重要性をより引き上げることに成功したのです。
アメリカの成功例から見る広報のポイント
日本では広報本部長がメディアに登場する機会はそれほど多くないのに対し、アメリカの報道官はニュースで見ない日はないほどメディア露出が多いポジションです。もちろん国によって立場が大きく異なるため、そっくりそのまま真似をするのは難しいかもしれませんが、今アメリカ国内で高い評価を得ているサキ報道官のスタイルからは学べることもあるのではないでしょうか?
確実に情報が得られる場を準備
サキ氏が毎日の記者会見を再開したことで、政府がどのように考えているのかをメディアや市民が確実に得られる場ができました。これにより、政府とメディア、政府と市民の関係が非常に近くなったと感じた人も多いことでしょう。
日本では広報担当者とメディア記者が対立するような場面も多々ありますが、本来であれば協力して確かな情報を市民に届けることが両者の責任です。アメリカにおける報道官と記者の関係性を急激に回復させたサキ氏の手法からは見習うことも多いでしょう。
多様な人に正しく情報を伝える方法を模索
サキ氏は、会見に手話通訳者を毎回帯同させる、生中継を行う、Twitterで文字による配信を行うなど、情報を欲する人が誰でも容易に情報を得られるような体制づくりに尽力しました。これにより、誰もが情報にアクセスできる基盤を固めました。
河野氏も今後、得意のSNSを活かしつつ広報本部長としてどのように情報を提供していくのかに注目が集まります。
広報のプロとしての資質と能力
サキ氏は政治ジャーナリストであるものの、政治家ではなく、あくまでも報道のプロフェッショナルです。だからこそ政府の戦略を客観的に捉え、国民でもわかりやすい言葉で説明することができます。
日本の政治記者会見には、わかりにくい、気持ちが伝わらない、形だけ、という口コミも多く、国民目線での説明になっていないという問題もあるようです。今一度、広報担当者の話し方やスキル、広報担当としての心構え等を見直してみるのもよいかもしれません。
終わりに
本記事では河野氏が就任したことで注目を集めている広報本部長の位置づけについて紹介するとともに、現在アメリカで大きな話題となっている注目の報道官サキ氏を取り上げ、広報の重要性について紹介しました。
広報は正しく実施すれば、必要とする人に正しく情報共有し、新しい価値を生み出します。しかしながらどこかで歯車がずれてしまうと、人々の誤解を生み出し、批判の対象に晒されることになります。
新政権のもとで広報本部長についた河野氏の資質と戦略に大きな注目が集まります。世界の報道官とも比較しながら、日本の広報について考えて見てはいかがでしょうか?