COLUMN海外メディア戦略コラム
アメリカのサブスク(Subscription Service)事情
近年、日本でも『Spotify』や『Netflix』など、アメリカ生まれの音楽、動画配信定額サー
ビスが人気を集めています。また、これらのサービス以外にも、コーヒー、ラーメン、ビ
ール飲み放題など、日本では多くの月額制定額サービスが提供されています。採算
度外視で月額制定額サービスを行っている企業もあり、このシステムは利益につなが
るのかという疑問も湧いてきそうですが、毎月確実な売上が得られることに加え、利
用客がその他の付加サービスや食べ物を利用することにもつながるなど、一部の企
業では、大きな収益増を達成しています。この月額制定額サービスは、アメリカでは
サブスクリプションとして広く浸透しており、非常に勢いのあるマーケティングモデルと
して、今、大きな注目を集めています。そこで本稿では、アメリカで人気のサブスクリ
プションモデル、とくに、まだ日本では実施されていないサブスクリプションモデルと、
大きな成功を収めているサブスクリプションモデルについて紹介します。
航空機のサブスクリプションサービス
アメリカでは、航空サービスのサブスクリプションが開始され、大きな話題になりました。広大な土地を有するアメリカだからこそのサービスといえるでしょう。
Surf Air
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2011年に米カリフォルニア州で創設されたスタートアップ企業「Surf Air」は、アメリカで初となる航空券のサブスクリプションビジネスを開始した航空関連企業です。利用者は、入会金と定額料金(月額1950ドル~)を支払うことで、カルフォルニア州やテキサス州を中心とした一部のルート間で、プライベートジェットが乗り放題になります。限られたルート間、また、限られた本数のみの運行ではありますが、定額料金以外は一切費用がからないため、頻繁な出張が必要となるビジネスマンにとって、大きな魅力といえるでしょう。
また「Surf Air」は、自社で航空機を所有し運用しているため、他の航空会社の影響を受けずに、「Surf Air」の顧客のみに焦点を当てたサービスを提供できることも人気の秘密です。その斬新なビジネスモデルは、サービス開始当初から、特にシリコンバレーを拠点とする起業家や投資家、弁護士などの富裕層からの支持を集めています。現在は、利用できる空港が少しずつ増えてきており、将来有望な航空機のサブスクリプションモデルとして注目を集めています。また、2017年より、ヨーロッパでのサービスも開始しています。
Wanderift
2019年1月にサービスを開始した航空業界の新鋭「Wanderift」は、定額料金を支払うことで、1か月に一定回数までのフライトを自由に利用できるサブスクリプションサービスです。現在は、月額369ドルで月3回までの利用が可能なプランと、月額459ドルで4回までの利用が可能なプランを提供しています。
「Wanderift」では、提携航空会社の航空機を利用するため、時期や予約状況によっては予約が取りづらいという場合も当然ありますが、何よりも格安で航空機を利用できるというのは、アメリカ国内の移動を頻繁に行う人々にとっては大きな魅力といえるでしょう。「Wanderift」が提携する航空会社は、世界最大の航空会社「アメリカン航空」、第二位の「デルタ航空」、第四位の「ユナイテッド航空」の大手三社で、同サブスクリプションサービスで利用できる国内線は、28都市間のルートを網羅しています。
また、一定回数の利用をしなかった場合、受けられるはずだったサービスが無駄になり、費用対効果が低くなりがちなサブスクリプションモデルが多い中、「Wanderift」の特筆すべき点は、搭乗可能回数を翌月に繰り越すことができる点が挙げられます。さらに、格安航空券同様にマイルを貯められ、追加料金を支払えば座席のアップグレードもできてしまうなど、料金面のメリットに加え、通常サブスクリプションモデルが併せ持つデメリットの一部を解消した、優れたサービスモデルといえるでしょう。
既に紹介した「Surf Air」とはターゲット層が異なり、月々の金額が安く設定されているため、利用目的もビジネス旅行やレジャー、週末の帰省など、ユーザーの大半は個人顧客です。ターゲットを明確化した戦略が功を奏し、サブスクリプション会員は2019年5月の時点で、月に52%のペースで増加していると同社CEOのZach Burau氏が明らかにしています。
Sky hi
「Sky hi」も「Wanderift」と同様に、航空機を格安で利用できるサービスです。飛行機の利用客にとって大きな悩みの種といえば、多くの航空会社が採用する、混雑状況によって航空券代金を変動させるダイナミックプライシングでしょう。そのような悩みを解決し、いつでも一定価格で航空券を購入できるようにしたサービスが「Sky hi」です。同社が提供するのは、月額199ドルを支払って会員になることで、月に5回のフライトまで、1フライトあたり35ドルから利用することができるというユニークなサービスです(飛行距離1000マイルまで。1000マイル以降2000マイルまでは75ドルなど、距離による別料金が設定されています)。こちらも航空機を頻繁に利用する必要のある人々に人気のサービスです。
タクシーのサブスクリプションサービス
「Lyft」
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「Lyft」は、アメリカでタクシーのサブスクリプションサービスを提供している会社です。月額299ドルを支払うことで、30日間で最大30回、15ドルまでの距離を条件としてタクシーを利用することができます。効率よく利用することで、最大450ドルに値するサービスを受けることができます。15ドルを超える距離の場合は、その差額分を支払うことで利用でき、月に30回を超えて利用する場合は、定額の5%割引の料金にて利用できます。このサブスクリプションで恩恵を受けるのは、条件がマッチした一部の利用者に限られそうですが、近年、渋滞の緩和に注力するアメリカにおいて、このサービスがどのように利用されていくのかに注目が集まっています。現在、日本においても、国土交通省がタクシーのサブスクリプションサービスの可能性について模索中です。日本では、渋滞緩和対策として、政府と連携しながら実施を進める可能性もあり、今後の情報に注目したいところです。
映画館のサブスクリプションサービス>
「AMC Theatres」
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アメリカでは、映画館のサブスクリプションサービスも行われています。複数の企業がしのぎを削る中、これから紹介する「AMC Theatres」は、近年急速に会員数を増やしており(2019年5月末の時点で登録者数80万人を突破)、注目を集めています。
エンターテイメント社が運営する北米で2番目に大きな映画館チェーンの「AMC Theatres」は、月額で19.95ドルを支払うことにより、週3回まで、映画館にて映画を視聴することができます。IMAXや3D、dolbyatomosの映画をみることもでき、オンラインで前売り券の購入も可能です。また、ジュースやポップコーンのサイズアップなどの特典もついており、映画好きにはたまらない内容といえるでしょう。月に3回程度映画館に行くだけで元が取れるため、一見、採算度外視で行っているのではと思えるような内容ですが、サブスクリプション会員が家族や友人を連れてくることによる集客数増加や、シアター内での飲食物や関連グッズの物販売上増加などにより、確実に相乗効果が表れているようです。
日本では映像ストリーミングサービスが人気ですが、諸外国に比べて映画館での視聴が高額なことも関係しているのか、映画館のサブスクリプションサービスは現在ありません。今後、日本でもこの形態のサービスが取り入れられるのか注目したいところです。
テイクアウトのサブスクリプションサービス
「MealPal」
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日本でも、コーヒーやラーメンのサブスクリプションが少しずつ広がりつつありますが、アメリカでは、以前からあたり前のように食事のサブスクリプションサービスが行われています。その中の1つ「MealPal」は、最近アメリカで特に人気の、ランチをテイクアウトできるサブスクリプションサービスです。
ユーザーは、事前にアプリを利用し、お店に注文します。そして、時間になったらお店に出向き、テイクアウトの料理を受け取ります。事前に注文してあるため、ランチの時間に長時間待つようなことはなく、すぐに受け取ることができることに加え、レジでお金を支払う必要もありません。また、お店側にも、接客に関わる人員を削減できるメリットがあります。お店が準備するのは、「MealPal」に掲載するたった1つのメニューのみです。1つのメニューのみを販売するため、準備が楽なこと、そして、コストを抑えられることが魅力です。
現在、アメリカ、特にニューヨークなどの主要都市では、多くのお店が「MealPal」のサービスに参加しているため、ユーザーは数あるお店の中から、その日の気分でチョイスし、ランチを楽しむことができます。料金プランは各都市によって異なりますが、ニューヨークのランチの場合は、毎月3回まで1食4.99ドルで利用できるお試しプランと、毎月12回まで1食6.39ドルで利用できるプランの2種類が用意されています。
洋服のサブスクリプションサービス
「Stitchfix」
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アメリカでは、ファッション関係のサブスクリプションがすでに広く浸透しており、日本でも同様のビジネス手法が流行り始めています。そこで、現在アメリカでサブスクリプションを利用し、売り上げを急速に伸ばしている注目のファッション関連企業を紹介します。
「Stitchfix」は、会員登録をして好みの洋服の条件や到着日時などを決定すると、自宅に最新のトレンドを取り入れたおすすめの洋服5点が送られてきます。会員は、その洋服を吟味し、欲しいと思えばそのまま購入でき、いらない場合は、いらない理由を記入したアンケートとともに「Stitchfix」に送り返します。「Stitchfix」の専属スタイリストとAIは、送り返された洋服とアンケートをもとに、会員が気に入るであろう洋服をチョイスし、次回送付する洋服を決定します。この過程を繰り返すことで、より会員の趣向に合った洋服が送られてくる仕組みです。個人の好みに合わせた洋服のみが送られてくるため、顧客からの評価が非常に高く、多くのリピーターを獲得しています。費用は、スタイリング費用と送付代として1回あたり20ドルがかかりますが、5点の中から1点でも購入した場合は20ドルが無料になります。また、5点すべてを購入した場合は、洋服代金の総額から25%オフになるサービスも行っています。
いかがでしたか。最近では、日本においても、ファッションやテイクアウトのサブスクリプションモデルが開始されていますが、成功のカギを握るのは、お得感はもちろん、ユーザーが求めるプラスアルファをいかに取り入れ、提供していけるかにかかっているようです。
※本コラムの情報は2019年制作時のものです。