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インフルエンサー・マーケティングに潜む危機とその対処法【前編】

危機(クライシス)。それはマーケターがもっとも恐れるもの。

残念なことですが、インフルエンサーと一緒に仕事をするインフルエンサー・マーケティングにおいて危機は常につきまとうものと考えておきましょう。もちろん多くのメリットをもたらしてくれますが、インフルエンサーがいったんフォロワーの支持を失うと、たちまちリスクへと変貌することを覚悟しておく必要があります。彼らのフォロワーがブランドに敵対するようになると、状況はたちまち悪くなっていきます。

しかしだからと言って、インフルエンサー・マーケティングを戦略から外す必要はありません。今回はまずインフルエンサー・マーケティングに潜む危機の5つのタイプについてご説明し、続く後編ではそれらの危機から立ち直るためのステップをご紹介していきます。

インフルエンサー・マーケティングに潜む危機とは何か?

インフルエンサー・マーケティングに潜む危機、それはインフルエンサーの振る舞いによってブランドの名声がリスクにさらされることです。

インフルエンサーと言えども人間である以上、そこには常に潜在的なリスクがつきまといます。彼らは予測できない行動に出ることがありますし、予告なしに意見や態度を変えることもあります。インフルエンサー・マーケティングの最大の利益は信頼性に基づくものである一方、その信頼性が揺らぐことでリスクにもなるという、まさに諸刃の剣なのです。

インフルエンサーと一緒に仕事をするというのは、つまり一人の人間と仕事をするということであり、それは翻ってインフルエンサーのアクションを完全にコントロールすることはできないということを意味します。このコントロールできない状況に対応するためには、潜在的な危機のタイプについて知っておくこと、そしてそれらにどう対処すればよいのかを知っておくことが役立ちます。

 

インフルエンサーのメリットがデメリットに

インフルエンサー・マーケティングの危機についてはすでに実例が数多く存在しており、インフルエンサーに起因するキャンペーンの失敗もあれば、ブランド自身の戦略ミスによる失敗もあります。ショッキングな危機からただただ困惑するだけのものもあり、そのダメージのレベルは危機のタイプやソーシャル・メディアにおけるインフルエンサーのリーチ力によってさまざま。

もしもTVや雑誌に登場して大きな影響力を持つメガ・インフルエンサーと仕事をしていた場合、その被害はたちまちほかのメディアにも急速に拡大することになるでしょう。一方、マイクロ・インフルエンサーの場合はリーチ力がそれほど大きくないため、相対的に被害は抑えられる傾向にあります。しかしそれでも、ソーシャル・ネットワークで活動している以上は鬼火のように拡大していくことを忘れてはいけません。

つまり、マーケティング部門ではイこういった危機をハンドリングするための周到なプランを立てておくことが欠かせないのであり、そのためには危機の5つのタイプについて知っておくことが大切です。

 

タイプ①:意図せず功を奏するもの

インフルエンサーが脈絡のないあるいはニセモノのコンテンツを投稿すると、インフルエンサー・マーケティングはたちまち危機に瀕します。

ドイツの洗濯用洗剤メーカーであるコーラル (Coral) で2017年に起きた事例をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。同社は何人かのインフルエンサーとタッグを組みましたが、結果として疑わしいコンテンツの投稿を招いてしまいました。階段に座ってポーズを取るときに、わざわざ洗濯用洗剤を持ち出して隣に置くひとがいるでしょうか?

このタイプの危機においては、ブランドは期待した結果を獲得することはできませんが、ダメージの程度はそれほど深刻ではありません。これらの投稿を見た人びとの多くはショックを受けたり怒ったりするのではなく、コンテンツを楽しんだからです。せいぜいインフルエンサーやマーケティング・マネジャーの資質を疑う程度でしょうし、ブランド自身の知名度はアップしさえしたかもしれません。

 

タイプ②:ガイドラインを無視したもの

ガイドラインやルール、規定を無視することは、自滅的な結果へと至るもの。

アメリカでは米国連邦取引委員会などの組織がインフルエンサー・マーケティングの規定を策定する動きが進んでおり、インフルエンサーがスポンサーを受けていることを明示しない場合、ブランドに悪影響が及ぶような仕組みになっています。

インフルエンサーとのパートナーシップが明示されていないことについてブランドが責任を負わなければならなくなり、罰金を支払うだけにとどまらず、その後のメディアからのネガティブな注目を集めることにもなりかねません。なかには、私利私欲のために消費者を操作しようとしたとして糾弾する消費者が出てくることもあるかもしれません。

この危機についての具体例としては、2017年に起きたロスマン (Rossmann)のケースが挙げられます。ドイツのドラッグストアである同社とパートナーシップを結んでいたインフルエンサーが適切にこのことを開示しなかったため、ロスマンは評判を落とすこととなりました。ブランド側の過失であれインフルエンサー側の落ち度であれ、最終的にはブランド自身がその責任を負うのです。

 

タイプ③:好ましくない連想によるもの

パートナーを組んでいるインフルエンサーのひとりが、もしかするとブランドとは関係のないところで自らの評判に傷をつけるようなことがあるかもしれません。

こういったケースにおいては、ブランドとインフルエンサーを関連づけてマイナスなイメージを持つユーザーもいるかもしれず、連想による二次的な被害を受ける恐れがあります。特にキャンペーンが続いている場合には要注意。

最近の事例としては、ポール・ローガンが記憶に新しいでしょう。青木ヶ原の樹海で男性の死体を見つけ、YouTubeにアップしたことでひと騒動を起こしました。さらにその一件から3週間後に自らの行動について謝罪する動画をアップし、その動画で200万もの「いいね」を獲得していました。これらを受けてYouTubeはGoogleプリファード・プログラム (Google Preferred Program) から彼を除外する措置を講じました。

別の事例としては、同じくYouTuberのピューディパイ (PewDiePie) が挙げられます。彼は反ユダヤ主義的な発言とともに決して笑うことのできない”ジョーク”を収録した映像をアップロードしたことで、パートナーシップを組んでいたディズニーから契約を解除されました。

 

タイプ④:インフルエンサーによって危機が悪化する場合

あの悲惨なファイア・フェスティバル (Fyre Festival) で起きたケースはインフルエンサー・マーケティングに潜む危機について重要な教訓を教えてくれます。この大失敗からわかるのは、その気になればインフルエンサーは既存の危機を簡単に悪化させることができるということ。それもまるで火に油をそそぐように簡単に。

インフルエンサー自身が危機の原因ではありませんが、ブランドが提供できないサービスをフォロワーにプロモートしたり約束したりすることによって、危機の拡大に加担してしまうのです。つまり、インフルエンサーが関わっていることによって危機が最悪な状況になりうるということ。

この事例が示しているのは、インフルエンサー・マーケティングに潜む危機はとても深刻な事態に発展する恐れがあるということです。インフルエンサーのアクションを完全にコントロールすることはできないため、いったん起こった危機は雪崩のようにスピードを増しながらたちまちのうちに拡大していくのです。

 

タイプ⑤:インフルエンサーが敵対する場合

これこそもっとも恐れるべきインフルエンサー・マーケティングの危機です。インフルエンサーがもしあなたに対して故意に敵対するようになったとしたら、どうしますか?

ここで、シンガポール在住のインフルエンサーであるエレーヌ・ジャスミン (@xelainejasmine) にまつわる最近の事例をご紹介しましょう。

彼女はトリクシー・コンが経営しているジュエリー・ブランド「バイ・インバイト・オンリー By Invite Only」とパートナーを組んでいました。しかしながら、ジャスミンはコンからジュエリーと一緒にパートナーシップの報酬を受け取ったにも関わらず、その後のタイムラインでブランドのプロモーションを行いませんでした。コンはそのことで彼女を糾弾し、この一件はソーシャル・メディアで公表されてしまったのです。

その後、ほかのインフルエンサーであるエレーヌ・ヘンがInstagramのストーリーを使って「コンのジュエリーの品質が悪いのでプロモートしたくなかった」と告白。プロモートすることによってフォロワーをミスリードするのを回避したかったという理由が添えられました。

事が大きくなるにつれて、同様の被害を受けていたほかのブランドがコンのFacebookのポストを通じてこのことを知ることに。そして今度はそれらのブランドがコンの擁護に回り、事態は「大炎上」となってしまいました。

このケースに教訓があるとしたら、すべての経緯をオープンにすることが必ずしも最善だとは言えないということ。もちろん状況にもよりますが、場合によってはとてもリスクの高い戦略です。

 

インフルエンサー・マーケティングの危機がもたらすもの

その行き着くところはブランドがどういったタイプの危機に遭遇しているのかによって異なります。しかし危機というものは往往にしてブランドのイメージや評判に影響を与えるもの。たった一人のインフルエンサーの間違った振る舞いとの連想でブランドの評判に傷をつけられるかもしれませんし(タイプ③)、あるいはインフルエンサー自身から直接被害を被ることになるかもしれません(タイプ⑤)。

いずれにしてもステークホルダーからの信頼を喪失することにつながりますし、カスタマーがブランドに対して敵意を持つようになるかもしれません。幸いなことに、こういった危機による悪影響を軽減することのできるいくつかの方法がありますので、次回ご紹介しましょう。

 

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